マルタンマルジェラと遊び心

ネットの某所でこんな趣旨の指摘を見かけました。

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マルジェラの服には遊び心があるというけどあまりピンとこない。
確かにそう見えるディティールがあるのは分かるけど、作り手の茶目っ気は伝わってこない。
どこか醒めた感覚で服をデザインしている人間が浮かぶ。

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なんだかこの指摘はすごく的を得たというか、本質をついた指摘であるような気がしています。

僕はこの指摘を受けて、
そもそもマルジェラって「遊び心がある」と評されるようなデザイナーだったのかな?
と、考えてしまいました。

例えばデビュー当時のマルジェラのコレクションに「遊び」があったかというと
(想像の域を出ませんが)必ずしもそうではない気がしています。

あれはむしろ異質でグロテスクでカルト趣味的な色合いが強かったのではないかと。
マルジェラが、自分の好きなものを作っていたと言い換えてもいいかもしれません。

それは、マルジェラを評する言葉として、よく用いられる
「破壊的」や「再構築」などといったフレーズを例にとっても分かることだと思います。

「遊び」はあくまで前提の中で、一定のルールを守りながら興じるもの。
「破壊的」とか「再構築」といった姿勢は前提そのものを問い直すもの
そもそもの姿勢というか、本気度が違う。
後者は遊びというにはガチすぎます。

そんなわけで僕は初期のマルジェラを評する際に「遊び心のある」という表現を用いるのは
あまり適切ではないのではないかと感じていたりします
「遊び心のある」という表現を不適切だ!とまで言う気は全くありませんが)。

一方で、今のメゾンマルタンマルジェラを評する際には
「遊び心のある」という表現はそれなりに適切な表現だと思っています。
ただより正確に言うと「遊び心のある」服ではなく「ひねりのきいた」服かなと

10ラインや11ラインなどが特に顕著だと思うのですが、
どこかにひねりのきいた、少し風変わりなアイテムが多くリリースされています。
僕が持っているもので言うと、穴あきのダメージ風カーディガンとか、そういうアイテムです。

で、たしかに今のマルジェラのこういった「ひねり」のきかせ方は
作り手の茶目っ気を反映したものではないという気が僕もしています。
そういう意味で遊んではいない。
むしろ、最初の指摘の言葉を借りれば「
醒めた感覚」による、
スタンダードからの計算された逸脱(=ひねり)かなと。

計算された上での逸脱なだけあって、ひねりはきいているけど普通にサラッと着ることができるし、
普通そうでいながら少し普通とは違う感じも出すことが出来る。
とっても便利でおしゃれなアイテムだと思います。

初期のマルジェラの、遊びというには気合いの入りすぎた服。
現在のマルジェラの、
遊びというには冷静な計算にもとづいた、適度にひねりのきいた服。

そのどちらが「いい服か」は、服を着る人の趣味や年齢、職種などによって異なると思うので
一概には言えないと思います
(ちなみに僕の話をすると、僕は両者の中間の2000年代前後の服が好きです)。

ただこうやって改めて考えてみると、初期と現在のどちらにしても、「遊び心のある」という表現は
(よく使われている割には)マルジェラにはあまり合わない言葉なのかなあなんて思いました。

今まで当たり前のように
「遊び心のある」とか「遊びのきいた」といった表現を使ってきましたが
言葉って自分で考えて選ばないといけないんだなあと感じました。
以上です。長文失礼しました。