ただただ単純に我慢ができなかった。

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市川準監督の2005年の作品、「トニー滝谷」は
レキシントンの幽霊」に収録されている
村上春樹の同名の短編小説を映像化したものです。


主演はイッセー尾形宮沢りえ
作中に多用されているナレーションは西島秀俊が担当。
音楽は坂本龍一です。


孤独なイラストレーター、トニー滝谷イッセー尾形)は
服を偏愛する女性(宮沢りえ)と結婚する。

彼は今までの自分の人生がどれだけ孤独なものだったかを
彼女と出会って初めて知る。

彼女の買い物好きを容認していた彼だったが
ある日思い切って彼女に切り出す。
少し服を買うのを控えたらどうだろう、と。

僕は何もお金のことだけを問題にしているんじゃない。
必要なものを買うのはいっこうに構わないし、
君がきれいになるのは嬉しい、
でもこんなに沢山の高価な服が必要なんだろうか。

彼女はそれを受け入れる。

彼女は毎日自分の衣裳室に入り
生地を撫でまわし、
匂いを嗅ぎ、
袖を通して鏡の前に立ってみた。
どれだけ見ていても飽きなかった。
そして見れば見るほど新しい服が欲しくなった。
欲しいと思うともう我慢ができなかった。

ただただ単純に我慢ができなかった。

しかしなんとかそこから抜け出そうとする彼女。
買ったばかりの洋服を返品しに行く途中で。。。


映画は横浜市緑区の美しい風景をバックに進みます。


イッセー尾形の静かな演技と
宮沢りえの透明感
多用される小説の文章そのままのナレーション
75分という短さが相俟って
静謐な世界観を持つ作品に仕上がっています。


東京は今雨が降っていて
少なくとも僕の部屋からは
雨音以外は聞こえません。


僕は一人でいることも
服を買うことも
生地を撫でまわすことも
匂いを嗅ぐことも
袖を通してみることも
好きです。

そして
新しい服がほしいという気持ちを
ただただ単純に我慢ができない。


服が好きかどうかは
この映画の本質ではないのですが
部屋があまりに静かだったので
この映画を思い出しました。