再構築

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注:今日はちょっと青臭いことを書きます。


僕はマルジェラが好きです。

マルジェラは破壊のデザイナーなんて呼ばれることもありますが
僕がマルジェラのことを好きなのは、彼が破壊のあとに創造をするからです。

古着を解体(破壊)して新しい服として再構築(創造)する。
従来は美しいと思われなかったかもしれないシルエットの中に新しい美しさを見出す
(価値観の破壊と新しい価値観の創造)。

哲学者や社会学者の中では、既存の価値観から離れてもう一度その意味を問いただす行為は
70年代(或いはその少し前から)から行われていましたが
服という非常に現実的なレベルでそれを行ったのは
80年代のマルジェラが初めてだったと僕は思っています。


かつては一部の知識人が声高に叫んでいた価値観の再構築も
冷戦が終結して久しい今では誰もが認識するところとなりました。

誰もが信じることができる価値観(大きな物語)はもはや存在しない。

一人一人が自分なりの価値観を創造して生きていかなくてはいけない。
一人一人が自己実現をしていかなければいけない。

でも自己実現ってなんだよと。

そこで人は(僕も)悩みます。

目指すべき場所って一体どこなんだと。

人間誰もがそんなことに自分自身で悩んで答えを見つけて生きていくほど強くないと言ったのは坂口安吾
そういうふうに悩むことは非常に健全なことで重要なことだと説いたのは姜尚中です。


終身雇用が崩壊して年金もあてにできない。

核家族化は進んでいるし自己実現したからといって老後の不安が解消するわけではない。

さらに氾濫している情報を眺めているとなんとなく自分の先が見えたような気がしてきてうんざりする。


でも、僕は思うんですけど
今のこの世の中で全く新しい価値観を創造するのはたしかに難しいですけど
まだ、再構築する余地、というかむしろ再構築すべきところはいっぱいあると思うんです。

例えば今問題になっている定額給付金制度がこれだけたたかれているのは
それが一律給付だからで
どういう人にどれくらいの額を給付するか
そのシステムがちゃんと構築されていればここまでは叩かれないはずです。

これまた最近問題になっている医療制度についても同様です。

きっとどのようなシステムを作っても批判はされると思います。
でもそれでもなるべくニーズに応えられるシステムは作った方がいい。

そして一番の問題はきっと、「どのようなシステムを作るか」ではなく、
「どのようにすればなるべくニーズに応えられるシステムを作れるか」だと思います。

後者が成立すれば前者はおのずと規定されてきます。


マルジェラが「古着を解体して再構築する」という手法を考え出して以降、
そのたったひとつのシンプルな手法のもとで多くの名作が生まれたように
「どのようにすればなるべくニーズに応えられるシステムを作れるか」が考え出されれば
その手法に沿って多くのシステムが再構築されていくと僕は思います。


個人の価値観の再構築はとても大事だし、
その過程で悩むこともとても大事だけれども
社会的なシステムの再構築をどう行っていくか、
その過程について悩むことは僕らの世代では非常に重要なような気がしています。

そしてさらに言えば、結果的にシステムについて悩む中で
関係性の中で生きる自分というものの位置も確認・確立されていき
自己実現にも近づくのではないかと思っていたりします。


誰もが驚くような服は作れないけど
なるべく多くの人が受け容れられるものを作っていく過程になら
貢献できるかもしれない。

僕はマルジェラからそんなことを学んだ気がします。