デザインとアート

sukebeningenさんが最近のエントリ
「現代におけるファッションのリアリティーというモノの困難さについて」
でこんなことをおっしゃっていました。
記事全文へのリンクはこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/sukebeningen/20080611

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(現代においては)セレブでさえチープな古着やデニムを履く。
何処に行っても一年中エアコンが効いていて、夏にも平気でレザーが着られる、そんな不確実な時代。

制約の無い自由さが服のアイデンティティーというのを恐ろしく困難にしている。

だから「今現在において服という存在は我々にとって一体何なのか?」コレに答えを出すことが
本当のデザイン。

※でもこのレースには全てのデザイナーが参加してる訳ではない。
そしてコレを理解している服好きな人間というのも、やはり少ない。
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非常に鋭いと思います。


でも僕はsukebeningenさんのブログを見ているといつも
「デザイン」と「アート」がいっしょくたにされているなあと思うんです。

まあデザインとアートの線引きは曖昧で
確たる答えがあるわけではないのでしょうが
「アート=何かメッセージ性を持つもの」
「デザイン=形を与えられたもの全般」
というくらいの区別はあるのではないかと僕は思っています。

その区別に則ると、sukebeningenさんが上でおっしゃっている
「本当のデザイン」という概念は
「デザイン」というより「アート」に近い(というかほぼ同義)ように思えます。
つまり、上記のsukebeningenさんの発言は
「今現在において服という存在は我々にとって一体何なのか?」
コレに答えを出す(=メッセージを発する)ことこそファッションにおけるアートだ。
と換言できるのではないかということです。

考えてみると確かにアート的なアプローチをしているデザイナーは多くないです。
そして服好きといわれる人たちの中でもブランドの服をアートとして捉え
そのメッセージ性にまで踏み込んで解釈をしている人は少ないと思います。

アート的なアプローチをするデザイナーとしてパッと思い浮かぶのは
川久保玲マルタンマルジェラフセインチャラヤンなどの
前衛的と称されるデザイナー達だと思います。
確かに彼らの作品にはメッセージ性がある。
例えばマルジェラは10ラインにおいて
既存のドレスコードを解体し、
文化的に規定されてきた装いのルールを
個人の嗜好性に引き寄せようとしている。
より簡潔に言えば
「あなたは私たちが作った服をどう着ますか?ドレスコードはあなたです。あなた自身で考えてください。」
というメッセージを発しているのです。
詳しい議論は過去の記事を参照ください↓
http://blogs.yahoo.co.jp/margielamarni/21708752.html


翻って、デザインについて少し考えてみたいと思います。

人間が作るものは皆等しくデザインされていますが
デザイン(特にファッションにおけるデザイン)には大きく分けて2つあると思います。
一つは形状・色・素材などを含めた服一つ一つのデザイン、
もう一つはデザインの評価枠組みのデザインです。

前者については異論はないと思いますが
問題は後者です。

後者を例を挙げつつ説明しますと
後者に含まれるものの一つとして
「トレンド」が挙げられると思います。
トレンドを作る、或いはトレンドに加担することによって
今までは「ダサい」と思われていた服が
一転「最先端」になる。
これはマクロな視点で見れば世論をデザインすることであり
ミクロな視点で見れば消費者個々人の意識(評価枠組み)をデザインするということになります。

また、「ブランドの世界観」を作ることも
後者のデザインに含まれるかもしれません。

 一点一点の服をとっかかりとして消費者が一ブランドに興味を持つ。
→消費者がブランドの世界観に共感する。
→消費者の趣味嗜好がブランドの世界観に影響を受ける。
→消費者はさらにそのブランドの服を買う。

この図式においてブランドの世界観を作ることは
確実に消費者個々人の意識(評価枠組み)をデザインすることにつながっています。

前者のデザインが消費者のニーズに合わせた商品をデザインすることであるのに対し
後者のデザインは消費者のニーズ自体をデザインすることであると言ってもよいでしょう。

さらに言えば、上で取り上げた「アート的なアプローチを取る」ことも
後者のデザインのうちの一つだと位置づけることが出来ます。
「アート的なアプローチを取る」ブランドだと認識されること自体が
「ブランドの世界観を作る」ことの一類型と考えられるからです。

そう考えるとアート的なアプローチを取るコムデギャルソンやマルジェラが
ブランドのイメージコントロールが非常にうまいという評価を得ているのも
当然という気がしてきます。


さて、長々と書いてきましたが結局何が言いたいかというと
デザインは非常に幅広い概念であり、
アート的なアプローチはもはやデザインの中の一手段となっているのではないかということです。

今必要なのは、アートこそ本当のデザインだと主張することではなく
アートをデザインの中の一つの手段として位置づけ
アート的な手法を取ることが手段としてどれだけ有効なのかを
考え、吟味し、評価していくことなのではないでしょうか。