すぐれものぞと町中騒ぐ、マルタンマルジェラとは何者か? 後編

前の記事↓の続きです。
http://blogs.yahoo.co.jp/margielamarni/34188443.html

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時間を1993年の3月にパリで行われたプレタポルテコレクションまで早送りしてみよう。
マルジェラは彼自身の中にあるテーマにこだわり続けているし、服を再構築し続けている。
変わったのは彼をとりまく「世界」のほうだ。
今ではJosephが彼の服を買い付け、Vogueが彼の服を写真におさめる。
この3月、マルジェラはショウを行わなかった。
その代わり、マルジェラ(以前より明らかに自信に満ちて見える)は、
ジャーナリスト達を、彼の内なる神聖な場所、つまりBoulevard Saint-Denisにある彼のアトリエに招いた。
驚くべきことに、そこにはマルジェラその人がおり、
プレスやバイヤーに対して情熱的に彼のニューコレクションについて説明していた。

私は階段を3階へと上がり、下地がむき出しになり、壁の石膏は剥げかけた、小部屋に通された。
窓は銀箔で覆われ、シャンデリアは白いドレープのかかった布帛で覆われていた。
私は、白いカバーに覆われた、硬い、金属製の小さな椅子に腰掛け、今通されてきたドア見つめながら
「何故、マルジェラは彼の『カミングアウトパーティー』を、この滅菌室の様な場所で開こうと思ったのか」
について考えた。
それはあまりにも寒々しいことのように思えた。

そこで私は彼のユーモアのセンスを再確認させられることになる。
廊下の掲示板に、過去、数年にわたって集められたであろう
デザイナーの名前のつづりが間違えられた、無数の手紙やファックスが掲示されていたのだ。
Martin Marigella、Martine, Marinといったものから、中にはMartha Margielaなんてものまで。
今ではもう、彼の名前をスペルミスする者は、いない。

マルジェラが入ってきた。
彼は、もはや彼のユニフォームとも言うべき、ブラックジーンズに黒いTシャツ、ネイビーの小さな帽子という出で立ちだ。
その上には、彼のアトリエの他のスタッフ同様、白いコートが羽織られている。

彼は流暢な英語で、今まで何故これほどまでにシャイであったのかを説明してくれた。
「私は私自身を、服を通して表現したかった。そしてその方法を突き詰めたかった。
今は、より多くの女性が私の服を着てくれています。それはとても喜ばしいことです。」

個人的な話はそこで打ち止めだった。勿論写真は「なし」だ。

それからマルジェラは、彼の服を着た8人の女性が登場する、短い白黒映画について語ってくれた。
「これはソフィー。彼女は建築家です。
彼女はこれまでファッションに興味をもったことはなかったし、それは今も変わらない。
彼女は蚤の市で買った4つのドレスをつなぎ合わせたドレスを着ています。
これはジェニファー。アメリカ人の写真家です。
ラムウールのドレスを着て自分のベッドで遊びに興じています。
これはクリスティン。私達の専属モデルです。
モヘアの袖が付いた花柄のドレスを着ています。」

おわかりいただけただろうか。
彼は、普通の人たち、つまりファッションヴィクティムではない、一個人のための服を作ろうとしているのだ。
そしてこれは、近年、新鋭のデザイナーの多くが語る言葉でもある。

その後、British Vogueのエディターが一群となって入ってきたが、
マルジェラはそのまま話を続けた。
個々の作品が、目を惹く。
縫い目を解かれ、スカートに作り直されたブルージーンズ、
ベルクロで留めるフェンシングジャケット、
キルティング素材のエプロンドレス、
肩にピンで留めて着用するモヘアのスリーブ、
肩以外の全てのディテールがオーバーサイジングなジャケット、
デザイナーのお気に入りであり、オリジナルデザインを全くいじらずに作成された19世紀の僧侶のローブ。


彼のすること全てを好きになるためには
あなたは幾分「熱狂的」とも言える状態にならなければならない。
彼のコレクションは、「すごくいいもの」から「すごく悪いもの」までが、奇妙なごった煮状態にある。
しかし、誰がわざわざ、どのアイテムがどちらにあたるかを指摘するだろうか。
ある女性にとっては、蚤の市で買ってきた4つのドレスから作られたドレスは素晴らしいクリエイションであるが、
別の女性にとっては、それは取るに足らないものでしかないのだ。
そしてマルジェラ自身、こういった状況を好んでいる節がある。

「Mix and match」
と彼は言う。

頭のてっぺんからつま先まで、マルジェラで揃えてはいけない。
マルジェラは彼のグルーピーを望んではいない。

「目に入るもの全てが私自身(が自身を表現するために作った服)という状況は、
あまり好ましいとは言えません。」
と彼は言う。

とは言え、世間はマルジェラが望むようにはなっていない。
デザイナー価格である彼の服は
彼が長年疑義を呈してきたファッションヴィクティムによって買われている。
ファッションの世界ではこういった事態から逃れることはできない。


我々の多くにとって、「マルジェラ」は、「感化されるべき人物」であり、
背中に貼り付けておきたい「ブランドタグ」ではない。
マルジェラをよく知る人間は皆、「彼はスターになることを望んでいない」と言う。
デザイナーの名前も書かれていない真っ白なマルジェラのタグは、
(スターになろうとするのではなく)我が道を行こうとするマルジェラを
何よりも端的に表している。

(了)
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